3泊4日 母と息子の二人旅

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旅の目的は釧路川をカヌーで下ること。見知らぬ道を走り、見知らぬ風景やその土地の生き物に出逢うこと。写真を撮ること。運がよければ天体観測。

自分(母)目線で立てた旅のプランだったが、最近バードウォッチングと写真に目覚め始めた14歳の息子にも魅力的なプランだったようだ。「わたしは一人でも行くけど、あなたも行く?」「え。行く。」ーー二つ返事で二人旅が決まる。

旅の予定は気の向くまま―と思っていたけれど、公営のキャンプ場は10月末で閉まると聞き、少し焦る。キャンピングカーの旅とはいえ、今回の旅では焚き火は欠かせない毎朝自分の「家」が自然の中にある喜びも堪能したい……ということで、「泊まりたい(泊まれる)キャンプ場」を軸に動きを考える旅となった。

10月31日

旅の始まりは地元の美味しいパン屋さん「麦音」十勝産小麦100%のもっちりした生地が評判らしい。昼飯・おやつ・夕飯を見込んで買い込む。今夜の夕飯はクリームシチュー。美味しそうなバケットも楽しみに買っておく。

「ローカル情報はローカルに訊く」のが旅の鉄則。 Vantrip高木さんのおすすめで「麦音」に続き、これまた地元のスーパー「ハピオ」で買い出し。たらばがにラーメン、十勝産チーズ、畜大牛乳など地元の美味しいものがいっぱいで楽しすぎる。息子にせがまれ少年ジャンプも旅のお供に。

初日、足を延ばして屈斜路湖まで行くことに。士幌〜足寄〜阿寒と、山々を眺めながら走り抜ける。後部座席をふと見るとジャンプを読みふける息子の姿(車酔いしても知らないけど)。Googleマップでは読み切れない高低差を実感する。いくつの峠を登って降りただろう……砂湯に向かう頃、日が暮れ始める。大自然の中では、日が暮れたら走らないーーとオーストラリアで学んだことを思い出す……初めてのエゾシカ、キタキツネが道の脇から現れる!やっぱり、いた!感動!

「RECAMP砂湯」到着。日は落ちているけど、湖畔は空を映してまだ明るい。薪を割り、火を焚くのは息子の仕事。温かいシチューとバケットをかきこむ。初めて聴くエゾシカの雄叫びに囲まれる。なんて不思議な声。ラッティングコールと呼ぶのだ、と、あとから知った。

11月1日

気温は2℃。朝靄の中、ダウンを着込み、カメラを片手に出かけてゆく息子。しばらく帰らなそうだ。お湯を沸かし、朝のコーヒーを湖畔で飲む。燃えるような紅葉と朝靄。秋の北海道もいい。

ご飯に温かいタラバガニラーメン。出がけに、せっかくだからと穴を掘って足湯。裸足の足で掘り下げると、水よりも砂利の熱さに驚く。これが「地球の熱」なんだな。

今日は釧路湿原までゆっくり移動。標識のままに硫黄山から摩周湖まで。摩周湖が山頂のカルデラ湖であることを初めて知る……第3展望台の眺めはより野趣にあふれている。

弟子屈の街で昼飯。朝夕キャンプ飯だから昼は人の手でつくられた美味しいものを戴こうと決め、駅前の「ポッポ亭」へ。インテリア、書棚の本、そして食事もすべて満足。どこにでもあるようなメニュー(豚丼、チキン南蛮)がとびきり美味しい。旅先でいいお店に出逢えると嬉しくなる

「ポッポ亭」のお姉さんのおすすめ、標茶町の天然温泉「味幸園」に立ち寄る。地元では隠れた名湯らしい。褐色でとろとろのお湯で芯まで温まる。お肌はつるつる。息子は「シャワーまで温泉かよ」と贅沢な不満を言う。

標茶から釧路湿原まで、カラマツと夕陽のオレンジの道を行く。白樺林の前で丹頂鶴のつがいに出逢う。カーブを曲がる度に息をのむ風景が広がる、美しいドライブルート。車を停めてばかり。

鶴居村「鶴の里キャンプフィールド」泊。広大な敷地の芝に車は1台きり。夜にはシカが50頭くらい来るよ、と受付のおじさん。期待と不安に胸がふるえるものの、夜間の大雨で群れの来訪はなかったようだ‥…。残念。

薪を割り、火を焚くのはもちろん息子の仕事。夕飯は鶏団子鍋。夜半からの雨予報に、せっかくセットした天体望遠鏡をしまう息子。無念。

11月2日

雨雲が去り、雲一つない快晴。風もなく、おだやかな水上を音もなくカヌーが進む。川の流れのように、終始おだやかな釧路マーシュ&リバーのガイドさん。遠くに阿寒岳を望む、どこまでもフラットに広がる風景。裸木で機を狙っているオオタカやオジロワシ。聞こえるのは、ざわざわと揺れる葦と、ばさばさと飛び立つ鳥の羽音だけ。静かな静かな世界を進む。

前に座る息子の背中。いつの間にあんなに大きくなったんだろう。

「一度は海が見たいね」ということになり、地図を見て、釧路から海沿いの道をしばらく走る。地の果てのようなセキネップの断崖。空と海と崖。「それしかない」景色に圧倒される。

「セキネップ展望広場」で折り返し、再び弟子屈へ。そこから翌日オンネトー湖を訪ねることにする。弟子屈への帰路、今度は塘路湖・シロマ湖と2つの湖畔を抜けて走る。息子もジャンプを置いて助手席にやってくる。両手いっぱいの空。

最終日「RECAMP摩周」泊。11月に営業している数少ないキャンプ場のひとつ。白樺の木立に囲まれた、ほどよい広さ。月あかりの下、いつもより長く火を囲んだ。ここも独り占めだなんて、夢のような贅沢。

11月3日

朝一、弟子屈を去る前にもう一度摩周湖を眺めて、帯広へ向かう。さまざまな青に見えるという「オンネトー」に立ち寄る。ミントグリーンの湖面を眺めながら、ぐるりと一周、遊歩道を歩く。くっきりとそびえていた雌阿寒岳が、気づくとすっぽり雲の中に。歩き終える頃には雨が降り出した。旅ももう終わりだ。

「十勝のモール温泉もいいよ」とVantrip高木さんに聞いていたので、士幌の日帰り温泉「しほろ温泉プラザ緑風」に立ち寄る。露天あり、ジャグジーあり、清潔感の溢れるこの施設が500円とは。本当にリーズナブル。褐色のお湯に芯から温まったあとは、旅の支度を帰り支度に。士幌の直線道路を何本も走り、見えてきた帯広の街の灯。色とりどりの灯りが懐かしく見えた

思春期を迎えた14歳の息子との距離感をはかりかねていた今日このごろ。近すぎず遠すぎずのキャンピングカーの旅は、ほどよい距離感だったのかもしれない。焚き火を囲んで飲んだ C.C.レモンがいつかウイスキーに代わっても、また一緒に火を囲めるといいな。また、いつか。

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